【Book】冬の北欧に旅立とうとする人に向かって、何と言う? (村上春樹が書いたヘルシンキ)

昨日に引き続き冬の北欧旅行のお話を。

クリスマスが過ぎた数日後、たとえば12月27日や28日などに、27〜28歳の頃合いの若者がたったふたりで集まって、静かに夕食を楽しんでいるとする。それは渋谷と神泉のあいだくらいの少し奥まった住宅地帯にある、イタリアンレストランとかそんなところ。街の忘年会騒ぎにも、恋人たちのクリスマス騒ぎにも関わりたくないふたりは親友で、平穏な雰囲気のレストランで、なににも邪魔されず、ただお互いの話から受けるひらめきと安心、その両方をふたりともが与え受け取りながら食事をとる時間をとっても楽しんでいた。

でも途中で、突然、片方の彼女が言う。

「夏が待ちきれないから、もう行ってしまおうかなと思うんだけど、どうかな?」

 彼女が待ちきれないのは夏の北欧で、もう行ってしまおうかなというのは、冬の北欧のことだった。

「どうかな?そんなのって、馬鹿げてるのかな?寒いの苦手なのに。面倒くさがりやだし、オーロラもそんなに興味ないし。寒い季節にもっと寒い場所に出かけて行って、暗くて寒くてやることないかな?どうかな?」

 そんな彼女に向かって、北欧に行ったことも行こうと思ったこともない親友は(この人も同じく面倒くさがりや)、こう答えた。

「うーん。じゃあ、とりあえず村上春樹を読んで考えてみたら?」

 *  *  *

私が北欧に行ってみたいけれど寒さが怖くて踏み切れなくて、うじうじして年を越えそうになっていたときに、友人が薦めてくれた本が村上春樹さんの『遠い太鼓』という本です。これは村上さんが1986年秋から1989年までにギリシャ・イタリアを旅した(期間的には、滞在した、あるいは、ほぼ、住んだ、という感じといっていいのかもしれないけど)ときの旅行記です。なかなかに分厚い文庫本。厚いパンケーキぐらい。しかしギリシャ?イタリア?・・・いったいこれと北欧はどう関係あるの?と思ったところ、友人いわく、この中に、村上さんがヘルシンキに滞在したときのことが書かれているのだとのこと。

「まあ、あんまいいこと書いてなかった気がするけどね。たしか寒いってことと料理がまずいってことばっかり書いていたような・・・」と言いつつ、「でも、そういう辛かった思い出も含めて知っておいた方が、それでも行きたいと思うかどうか考えるにはいいんじゃないかな?!」との提案でありました。

「たしかにそうだね!」とさっそく私は年の瀬のカウントダウンに追い越されないようにその本に取りかかりました。(私は友だちという存在が本当に好きで、この人のこういう薦めはぜったいに間違いない、という自信と信頼があったのです。)569ページ中、331ページ目から「ヘルシンキ」がスタートします。おごそかに。1987年、村上さんが『ノルウェイの森』を講談社の編集者に「とても面白かった」と言われて、「まあ良かった」と胸をなでおろし、日本でもろもろの仕事を片付けた後の、9月のことです。

 内容についてはぜひ読んでみていただきたいところなのでここで、村上さんがヘルシンキやフィンエアーについてどう書いていたかを要約したり抜粋したりすることは避けましょう。

 でもとりあえずここに書いておいたほうが良さそうなのは、「そんなに悪くは言ってないよ?」です。いや、むしろ・・・・・・。

 友人はずっと前にこの本を読んだそうなので、「寒い・まずいって書いてあった」という印象がなぜか中心に残っていたようですが、実際にはオーケストラを聴きにいったこととか、街の様子のことだっていろいろと書き込まれています(まあ、そりゃそうでしょうよ)。 

叙情的な雰囲気もあるけれど、実用的ともいえる情報も細やかに潤沢に練り込まれていて、読み終わった人はちょっとしたヘルシンキ通・歩くガイドブックになれそうな勢い(それは言い過ぎか)。読んでいるときはたしかに、いち個人の数日間の旅行記なのですが・・・不思議です。もしかすると村上さんは特許取得のための明細書とか、高額なカメラの取り扱い説明書とかを書くのも得意な性格の方なのかもしれません。(彼がそういうのを書いたらどんなふうになるんだろう?って想像するとなんか楽しい。)

と、いうことで。

日本でもまだ冬の真っ最中のこの時期。私から、北欧が気になるあなたにも、この本をおすすめします。(ほしの)

 

*追記:「村上春樹さんが、あなたのメールに(できるかぎり)答えます」というサイトが1月15日から期間限定でオープンするそうです。さてその後、村上さんは再びヘルシンキを訪れることはあったのだろうか?

・・・ということを、質問してみようかしら。

【村上さんのところ】サイト↓

http://www.shinchosha.co.jp/murakamisannotokoro/